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2015年8月 6日 (木)

オリンピックエンブレム著作権問題について思うこと

オリンピックのエンブレム問題が騒動となっています。

http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00299409.html

私の所属する事務所の弁護士たちも各所で著作権侵害ではないとコメントしており,組織委員会等の公式見解も問題がないということで進んでいるようです。

今朝の報道ではデザイナーの佐野研二郎氏の会見内容が取り上げられていて,全体的には彼を擁護するコメントが多かったように思いますが,私は彼の会見には疑問と,そして少し残念に思うことがありました。

彼の会見内容は,

 (1)作品としては違うものだ

 (2)ベルギーのロゴは見たこともない

というものです。

(1)は複製権・翻案権侵害の要件である同一性・類似性を,(2)は依拠性を否定する趣旨で,これを聞いた時に,

  あぁ,誰か弁護士がアドバイスした上で行われた会見だな。

と思いました。

しかし,こういう反論は,いわゆる「パクッた」側が使う常套句でもあります。本当にパクッていない人は,こういう時に

  自分はこういう過程を経てこの作品に至った

という創作過程を説明すると思うのですが,彼の会見ではそのあたりには言及されていませんでした。

また,「T」と「円(〇)」というのが彼の説明でしたが,

① 「T」はわかるとして,なぜ「円(〇)」なのか。

② 日の丸的な赤い〇があるのに,なぜさらに「円(〇)」が必要なのか。

③ そもそも「円(〇)」というより楕円っぽくないか。

というあたりも引っかかりました。

なにより,ベルギー側がコメントしたとされる

  コンセプトは違っても酷似している

という言葉の方が説得力がある気がしました。

まぁ,それはデザインの素人である私がとやかく言えることではないでしょう。

やはり私は(2)が大事だと思います。

上述した,創作過程の説明ということはここにも関係することですが,その点への言及がなかったことは残念です。

しかし,それよりもっと残念だったことがあります。

本当に佐野氏がオリジナルでデザインをしたのであれば,それは当然胸を張ってよいことです。

しかし,自分がオリジナルで作り上げたデザインが,結果的にとはいえ,既に公になっている他人のデザインと似ている(著作権侵害かどうかはともかく,似ているという点は否めないと思います)ことがわかった場合,私だったらそのこと自体をとてもショックに思うでしょうし,先行するデザインをした方にとても申し訳ないという気持ちになるのではないかと思います。

佐野氏にそのような気持ちがないとは思いませんが,少なくともあの会見からは,その率直な,常識的な気持ちが全く伝わってこなかったのが残念です。言い方は悪いですが,剽窃されたと指摘された場合の逃げ口上としての紋切り型の常套句を並べただけ,と言われても仕方がない気がします。

どういう弁護士がアドバイスをしたかわかりませんが,どうして,

1 オリジナルであることの表明

自分はこういう過程を経てこのデザインに至ったのである。 「T」と「円(〇)」としてほかにこんな案もあったが,やはりこれが一番美しい,ふさわしいと判断したのである。だからこのデザインは私のオリジナルの作品なのである。

2 ベルギーのデザインに対する敬意の表明

ベルギーのデザインは今回初めて目にしたが,洗練された非常に素晴らしいデザインだと思った。

3 デザイナーとしての謝意の表明

似ていると指摘され,確かに直感的には似ていると思われても仕方がないとは思う。オリジナルの作品として作ったのにこういう結果になったことは自分としても非常にショックを受けているし,ベルギーのデザイナーが不快に思っているとしたら申し訳ないという気持ちはある。

4 ベルギー側に理解を求めたい旨の表明

・ しかし,彼のデザイン自体,洗練されていることの裏返しとして極めてシンプルなものであり,どうしても似たものになってしまいやすい作品だと思う。似たデザインになったことについて,ショックだし,申し訳ないという気持ちがある反面,こうなったことの背景には私と彼が美しいと思うデザインが共通していたこともあるのだと思うし,そのことは誇りに思いたい。

・ 私が作るデザインについても,誰かが真似したわけでもないのに似た作品を作ってしまうということはあるだろうということを再認識した。

・ とにかく,断じて模倣したものでも,剽窃したものでもないということをベルギーのデザイナーにも理解していただきたい。

といった,デザイナーとしてこういう問題に直面した場合に当然感じるであろうニュアンスを込めた会見にしなかったのかな,という点が残念に思いました。私がアドバイスする側だったら,一度会って直接説明をしてもいい,くらいの提案もするかと思います。

もっとも,ケンカを売られたら絶対に先に頭は下げない,というアメリカ的な交渉術からするとありえないことかもしれませんが。

ちなみに,私も剽窃されたクリエイター側に立って仕事をしたことが何度かありますが,クリエイターというのは上述のような紋切り型の常套句を並べられると怒り・不快感を増長させてしまうものです。

案の定,ベルギー側は全く納得していない様子。

さて,これからどうなるのか。裁判などやるか,という見立ての方もいるようですが,クリエイターだったら,勝ち負けはともかく,佐野氏に反対尋問をして創作過程を尋ねたい,というだけの理由で提訴に踏み切る人もいるかもしれない,という気がします。

法的には勝てる,裁判になっても勝てる,そういう事件でどうやって相手に矛を収めてもらうか,今後の佐野氏,そして組織委の対応がとても楽しみです。

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