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2016年2月29日 (月)

著作権侵害罪の非親告罪化~著作権村はそろそろ刑事村の人を招いた方がいい

1 はじめに

環太平洋経済連携協定(TPP)の合意を踏まえた著作権制度の見直しについて,2月24日に開催された文化庁の文化審議会著作権分科会において,方針が固まったそうです。

http://news.braina.com/2016/0225/rule_20160225_001____.html

報道によると,このうち,非親告罪化については,

  (1)著作権者の告訴がなくても警察が海賊版を取り締まれる「非親告罪」の導入

  (2)「パロディー」など二次創作活動を委縮させる問題を避けるため、

     元の権利者の収益に影響を与えない二次創作や、漫画の一部を複製する行為

     などは除外する

とされています。

2月24日に開催された文化審議会著作権分科会の資料が確認できていないのですが,これをご覧になって,非親告罪化を受け容れたTPPの合意と,二次創作に対する萎縮的効果を懸念する国内の声の調和を図った妙案だと思われる方もおられることと思います。

でも,本当にそうでしょうか。

2 本当に二次創作を萎縮させない効果があるのか

まず,既にいろいろなところで指摘もされていますが,親告罪というのは捜査を終えて検察官が起訴する段階で告訴権者による告訴が必要な犯罪です。ですから捜査を行うために告訴が必要なわけではありません。

その意味で,

   「著作権者の告訴がなくても警察が海賊版を取り締まれる」

というのは明確な誤りです(ちなみに告訴権者=著作権者というわけでもないので,この意味でも上記記載は不正確です)。

次に,検察官が起訴する時点で告訴が必要ですが,仮に実際の犯罪が親告罪だったとしても,検察官が非親告罪として起訴している限り、告訴がなくても起訴そのものが直ちに違法になるわけではありません。この場合は証拠調べなどの実体審理に入ることになります。

今回の,

   著作権侵害罪を非親告罪

   二次創作に関する著作権侵害罪を親告罪

とした場合にも,検察官が

   「二次創作にはあたらない」

と判断し,単なる著作権侵害罪として起訴している限り,起訴が直ちに違法ということにはならず,そのまま実体審理に入ることになります。

起訴された被告人・弁護人側が,

   「本件は親告罪である二次創作に関する著作権侵害罪だから,

        告訴がない以上起訴は違法だ」

と主張をしても,裁判所としては著作権侵害罪か,二次捜査に関する著作権侵害かは証拠調べをしないと判断ができませんから,とにかく実体審理をしましょうということになるでしょう。

つまり,そのまま裁判は実体審理に入るわけです。

そして,審理の結果,裁判所が二次創作にあたらないと判断した場合には,そのまま有罪判決がなされることになります。

では,実体審理の結果,裁判所が,二次創作に関する著作権侵害罪だと判断した場合どうなるでしょうか。刑事訴訟法上はいろいろと議論のあるところですが,その段階で告訴が得られれば公訴棄却にはならず有罪判決がなされると考えるのが一般的だと考えられます。

ちなみに,最終的に告訴が得られず公訴棄却の判決がなされたとしても,検察官が告訴を得た上で改めて起訴することは可能と考えられています。

つまり,検察官としては,二次創作に関する著作権侵害罪が親告罪であったとしても,別に単なる著作権侵害罪だとして告訴のないまま起訴し,審理の結果裁判所が二次創作に関する著作権侵害罪だと判断した時点で告訴が得られればよいことになります。

二次創作をした側からすると,起訴されて,裁判所が二次創作だと認めてくれない限り,また二次創作だと認めてくれたとしてもその段階で告訴がなされた場合には処罰されてしまうわけです。

果たしてこれで二次創作を萎縮させないという目的が達成できるのでしょうか。

3 どういう法制度にすべきなのか

文句ばっかり言っていないで,ではどうすればいいのだ,と言われそうですので,私が思う解決策を一つ紹介しておきます。

まず,親告罪と非親告罪を設けるのであれば,親告罪を原則としつつ,非親告罪を法定刑の重い加重類型の犯罪にした方がいいと思います。

告訴権者の意思を尊重しようという観点から親告罪とした趣旨を踏まえつつ,告訴権者の意思を捨象してでも処罰すべき社会的・公益的必要性の高い,よって法定刑も重い場合を非親告罪とすることが法制度としてはバランスがいいように考えられるからです。

親告罪である強制わいせつ罪や強姦罪と非親告罪である強姦致傷罪や集団強姦罪などと同様の考え方です。

例えばデッドコピーに関する著作権侵害で営利目的が認められる場合,累犯の場合などを非親告罪にすることなどが考えられないでしょうか。

このように,例外的な類型を非親告罪化することで,検察官としては,例外的な場合にあたることが立証可能という見込みがない限り告訴を得ておこうという判断に傾きやすいのではないかと考えられます。 その結果,告訴もない状態での起訴,さらにはそれに向けた捜査を抑制する効果が期待できないかと考えられるところです。

4 最後に

そもそも非親告罪化については,二次創作への影響も含め,それほど懸念する必要はないというのは既にこのブログでも書いたとおりです。

文化審議会著作権審議会の資料にも,同様の意見が紹介されていて,これを踏まえた議論がなされているのだと思います。しかし,審議会で集約された方向性が今回の報道の通りだとすると,刑事訴訟手続における告訴の意味・機能を踏まえた議論が十分になされたのか,疑問に思うところです。

文化審議会著作権審議会といえば著作権村の住民の晴れ舞台ですが,残念ながら今のところ刑事法の専門家は著作権村に入れてもらえていない状態です。

刑罰法規という国民の人権に密接に関係する法改正なのですから,そろそろ刑事法の専門家(学者なり刑事裁判官なり検察官なり)を招き入れた方がよいのではないかという気がします。  

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