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2016年3月31日 (木)

著作権侵害罪の非親告罪化についての著作権法改正案

1 はじめに

TPPの合意を踏まえた著作権法改正案が政府から提示されました。

(概要)http://www.cas.go.jp/jp/houan/160308/siryou1.pdf

(条文)http://www.cas.go.jp/jp/houan/160308/siryou4.pdf

非親告罪化についてはこのブログでも過去に何度か書きましたが,今回はこの改正案について考えて見ましょう。

2 改正案の内容

著作権侵害罪の非親告罪化について,従来の報道では,

   原則として親告罪化としつつ,二次創作については非親告罪とする

という方針のように思われたのですが,この改正案を見ると,

   現行法の非親告罪を原則としつつ,例外的に非親告罪とする

という内容となっています。具体的に非親告罪となるのは,以下の要件を全て満たした場合です。

  ①対価を得る目的又は権利者の利益を害する目的があること

  ②有償著作物等(※)について原作のまま譲渡・公衆送信又は複製を

    行うものであること

  ③有償著作物等の提供・提示により得ることが見込まれる権利者の利益が、 

    不当に害されること

  (※)有償で公衆に提供又は提示されている著作物等

となっています。

3 改正案の目的と評価

改正案は,TPPにおいて求められた非親告罪化導入に応えつつ,各方面から懸念が示されていたコミケやパロディに代表される二次創作を萎縮させないために親告罪を残すということを目的としていたものと思われます。

私自身はコミケなどがどこまで保護されるべきものなのか,また非親告罪化することが二次創作を萎縮させることになるのかという点については疑問に思っています。ただ,それを捨象すれば,この目的を実現するためには有意義な改正だろうと思います。また,もともとTPPの合意文書でも,

    商業的規模の違法な複製等であっても

    市場における原著作物等の収益性に大きな影響を与えない場合

は非親告罪化の対象にしないこととされていました。つまり,非親告罪化を求められていたのは,

    市場における原著作物等の収益性に大きな影響を与えるような

     商業的規模

の著作権侵害行為というわけです。今回の改正案は,この合意内容にも即した文言になっていると言えます。

ただ,それでも今回の改正案には少し奇妙なところがあります。

4 ちょっと変だぞ,改正案

まず,今回の改正は,著作権侵害罪を定めた罰則(119条1項)自体を改正するものではありません。ですから,非親告罪も親告罪も,同じ著作権侵害罪であり,おそらくは起訴状に書かれる公訴事実も,判決で書かれる罪となるべき事実も同じですし,当然のことながら法定刑も同じです。

実はこれは少し異例で,本来保護法益が同一の同種犯罪で親告罪と非親告罪が並存している場合は,罰則も法定刑も異なるのが一般的です。

例えば強姦罪(刑法177条)は親告罪ですが,集団強姦罪(同180条の2)は強姦罪より法定刑が重く,非親告罪です。これは,何らかの理由で親告罪としつつ,その親告罪とする理由を凌駕する処罰の必要性がある場合を非親告罪とするものです。基本的にこういう場合は非親告罪のほうが法定刑も重くなることとなります。

ただ,罰則が同じでも例外的に親告罪としている例もあります。例えば窃盗罪(刑法135条)における親族間での特例(同244条2項)などです。これらは,基本的に処罰の必要性があるので非親告罪としつつ,一定の場合には法が介入すべきでないといった観点から例外的に親告罪としています。

しかし,今回の改正案のように,同じ罰則・法定刑が同じ犯罪について,原則として非親告罪としつつ,例外的に親告罪とするという場合はあまり例がありません。例外的に親告罪とするのは告訴がなくても処罰する必要性が高いと考えられるからでしょうが,それなのに法定刑が同じというのはどういうわけなのか,説明が必要ではないでしょうか。

そういうこともさておき,この改正案をよく読むとちょっと面白い展望が見えてきます。

5 もしかしたらすごいぞ,改正案

まず,親告罪における告訴の有無は訴訟条件ですので,実体審理に入る前に判断されるべきものですが,非親告罪とされる上記3要件は,証拠調べをしないと判断がつきません。検察官としては,上記3要件を満たす事件であるとして起訴する場合には,この3要件についても証拠をそろえて立証することになります。

しかし,上記のとおり,親告罪でも非親告罪でも法定刑は同じですから,検察官としてはそんな要件を立証してまで非親告罪だと主張することに対するモチベーション(重く処罰してもらおうという動機)はあまりありません。

そもそも,以前にも書きましたが,仮に非親告罪化が実現しても,検察官としては告訴が得られないような事件を無理に起訴するということは考えにくいところでもあります。とすると,検察官がわざわざ非親告罪だとして起訴する可能性は低く,現状のまま告訴を得て親告罪として起訴することになるだろうと思います。

また,そうやって親告罪として起訴された場合に,被告人・弁護人が,

   本件は上記3要件を満たすから非親告罪だ

と争うかというと,そんな争い方をする意味はありません。上記3要件を満たすとむしろ犯情がよくないので刑が重くなってしまう危険性が高いからです。

こう考えると,せっかくの改正案ですが,

   非親告罪を定めた規定は実務的には使われることがない=死文化する

ことが必至ではないでしょうか。

もしも,TPPの関係で非親告罪を導入せざるを得ないので仕方なく導入するが,有名無実化することを狙ってこのような改正案ができているとしたら,

   やるじゃん!

というところではないかと思います。

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