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2016年11月 7日 (月)

意外と奥が深いチケット高額転売問題

1 はじめに

 

著名アーティストがずらりと並んでチケットの高額転売に反対する運動を展開しています。

https://www.tenbai-no.jp/

 

どうやら人気のアーティストの皆さんもお怒りのようです。転売自体の是非についてはいろいろな意見があるようですが,弁護士ですので私が気になるのは法律論。法的な観点からいろいろ説明したものはありますが,どうも物足りなさが残るので,例によって頼まれてもいないのにここで思ったことを悶々と書いておきます。

アクセスする人も少ないブログなので,基本的に自己満足ということになります。何の因果かここに辿り着いてしまったそこのあなた,申し訳ありませんがちょっとお付き合いください。

 

チケット高額転売問題については,迷惑防止条例,古物営業法,物価統制令,そしてチケット販売に際しての規約を持ち出している人が多いですが,おそらくこれらに加えて特定商取引法も関係してくるだろうと思います。以下,それぞれについてご説明をします。

 

2 迷惑防止条例

 

(1)迷惑防止条例の規制内容

 

各都道府県の定めている,「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等に関する条例」といった長い名前の条例を縮めて「迷惑防止条例」と呼んでいます。

 

この条例の中で痴漢などの行為と共に処罰対象とされているのが「ダフ屋」行為です。ダフ屋と並べるとは,条例は痴漢を軽く見過ぎているというべきか,痴漢と並べるとは,条例はダフ屋を厳しい目で見ているというべきか,どちらだと思いますか。

それはさておき,東京都の迷惑防止条例では2条にダフ屋についてのこんな規定があります。

  1. 何人も,乗車券,急行券,指定券,寝台券その他運送機関を利用し得る権利を証する物又は入場券,観覧券その他公共の娯楽施設を利用し得る権利を証する物(以下「乗車券等」という。)を不特定の者に転売し,又は不特定の者に転売する目的を有する者に交付するため,乗車券等を,道路,公園,広場,駅,空港,ふ頭,興行場その他の公共の場所(乗車券等を公衆に発売する場所を含む。以下「公共の場所」という。)又は汽車,電車,乗合自動車,船舶,航空機その他の公共の乗物(以下「公共の乗物」という。)において,買い,又はうろつき,人につきまとい,人に呼び掛け,ビラその他の文書図画を配り,若しくは公衆の列に加わつて買おうとしてはならない。
  2. 何人も,転売する目的で得た乗車券等を,公共の場所又は公共の乗物において,不特定の者に,売り,又はうろつき,人につきまとい,人に呼び掛け,ビラその他の文書図画を配り,若しくは乗車券等を展示して売ろうとしてはならない。

 

ごちゃごちゃしていますが,要するに1項では転売目的でのチケットの購入を,2項は転売目的で購入したチケットの転売を禁止しているのです。

 

そして,チケット高額転売については,転売目的でチケットを購入していると思われることが1項に,転売目的で購入したチケットをオークション等で販売していることが2項にあたるのではないか,ということが問題となります。

 

(2)迷惑防止条例による規制の問題点

 

迷惑防止条例を使ってのチケット高額転売の規制について,まず1項はあまり役に立ちません。チケットを購入する段階で,その人が転売目的で購入していると断定するのは容易ではないからです。ですから,2項を使い,オークション等での販売行為を問題にしたいところです。しかしこれにも問題があります。

 

まず,ネットオークションという場が,迷惑防止条例が売買をすることを禁止している「公共の場所」に該当するか,という問題です。ただ,ここは個人的には解釈で対応する余地があるのかな,とは思っています。

 

それより問題なのは,迷惑防止条例はあくまで条例で,その条例の定めている都道府県内の行為しか規制できないという点です。

 

例えばネットオークションにおいて,東京都在住の人が自宅のPCから出品をした商品を神奈川県在住の方が自宅のPCを使って落札をした,そのオークションサイトのサーバーが千葉県にあったという場合,いったいどこの条例が適用されるのでしょう。

こういう問題が生じてしまうことからも,迷惑防止条例はネットオークションのような場面,そしてチケット高額転売に適用するのはやや困難だということになります。

 

3 特定商取引法

 

(1) 特定商取引法の規制① 通信販売

 

チケット高額転売について,特定商取引法に言及する方はあまり見かけません。

ところが,2009年の改正で「指定商品・指定権利・指定役務」が廃止されるまで,特定商取引法には「指定権利」として,

 

  • 映画,演劇,音楽,スポーツ,写真又は絵画,彫刻その他の美術工芸品を鑑賞し,又は観覧する権利

 

が掲げられていました。正にチケットの売買に伴って取引される権利です。「指定商品・指定権利・指定役務」が廃止されることで特定商取引法の適用範囲は拡大をしましたから,従前の「指定権利」に関する取引については現在も特定商取引法の規制が及びます。

 

そして,特定商取引法2条2項は,

 

  • ・・・「通信販売」とは,販売業者又は役務提供事業者が郵便その他の主務省令で定める方法(以下「郵便等」という。)により売買契約又は役務提供契約の申込みを受けて行う商品若しくは指定権利の販売又は役務の提供であつて電話勧誘販売に該当しないものをいう。

 

と定め,「主務省令」すなわち特定商取引法施行令2条2号は,「主務省令で定める方法」として,

 

  情報処理の用に供する機器を利用する方法

 

が含まれるとしています。これにより,ネットオークションを通じたチケット高額転売は特定商取引法上の「通信販売」に該当する余地が出てくるわけです。

 

仮に通信販売に該当する場合は,販売業者(後述します)は,特定商取引法施行令に基づき,住所・指名等を表示しなければならないなどの規制が及ぶことになりますが,ネットオークションの出品者(個人)でそんなことをしている人はまずいません。従って特定商取引法違反ということになるわけです。

 

(2)特定商取引法の規制②

 

もっとも,特定商取引法上の「通信販売」は,販売業者が行う場合に限られます。「販売業者」とは販売を業として行う者ですが,ネットオークションの出品者がチケット販売(転売)を業として行っていると評価できるのでしょうか。

 

この点について,消費者庁が平成18131日付で発表した(当時は経済産業省)

 

  インターネット・オークションにおける「販売業者」に係るガイドライン

   http://ur0.link/ztHd

があります。いろいろと書いてありますが,まとめると,ネットオークションでのチケットの出品者が以下のいずれかに該当する場合は(例外の余地もありますが)販売業者と扱われるようです。

  1. 過去1ヶ月に200点以上又は一時点において20点以上の商品を新規出品している場合
  2. 落札額の合計が過去1ヶ月に100万円以上である場合
  3. 落札額の合計が過去1年間に1,000万円以上である場合

 

ぱっと見ると,かなり大掛かりに取引をしている場合という印象ですが,よーく見てください。1で「一時点で20点以上の商品を新規出品している場合」というのはどうでしょう。いわゆるチケット高額転売として問題視されるようなケースではありそうな気がしませんか。アーティストが問題視するような大規模なチケットの買い占めと高額転売については特定商取引法を持ち出す余地はありそうな気がします。
 

(3)特定商取引法の規制の問題点

 

特定商取引法の規制の問題は,取引自体を禁止するものではありませんので,特定商取引法のルールを順守した取引をされるとチケットの高額転売自体は認めざるを得ないことにあります。

 

4 古物営業法

 

(1)古物営業法の規制

 

チケット高額転売についてよく言及されるのが古物営業法です。古物営業法における「古物」(2条1項)には,古物営業法施行令において

  • 興行場又は美術館,遊園地,動物園,博覧会の会場その他不特定かつ多数の者が入場する施設若しくは場所でこれらに類するものの入場券

が含まれます。正にチケットがこれに該当します。そして「古物」の売買を営業とすることは「古物営業」とされ(221号),これを行うためには公安委員会の許可を得なければなりません(3条1項)。もちろん,ネットオークションの出品者で許可を受けている人はいないでしょうから,無許可での古物営業として古物営業法違反となり,3年以上の懲役又は100万円以下の罰金という刑罰が科されます(311号)。

 

(2)古物営業法の規制の問題点

 

古物営業法でもやはりチケット販売を営業としていると判断できるのかが問題となります。明確なガイドラインは見当たりませんが,上述した特定商取引法上のガイドラインに基づき同法上の「販売業者」に該当する場合は古物営業法上も古物営業を行っていると判断される可能性が高いだろうと考えられます。

 

とすると,特定商取引法のところで,特定商取引法のルールを順守した取引をされるとチケットの高額転売自体は認めざるを得ないと書きましたが,古物営業法違反として高額転売自体を規制することも可能ではないかと思われます。

 

なお,古物営業法は本来「盗品等の売買の防止,速やかな発見等を図るため,古物営業に係る業務について必要な規制等を行い,もつて窃盗その他の犯罪の防止を図り,及びその被害の迅速な回復に資することを目的とする」法律です(1条)。従って,チケット高額転売に適用することにはやや違和感がある法律であることは否めないでしょう。

 

5 規約

 

(1)規約による規制

 

個人的には以上の法律をフル活用すればチケット高額転売もある程度抑制できるとは思いますが,法律では不十分だとして規約に言及する方が多いです。つまり,チケット購入に際して「転売禁止」といった規約を設けておけば,チケット高額転売はこの規約違反を理由に規制できるという論理です。

 

ほほぉ,そうか,と言いたいところですが,果たしてそうでしょうか。

 

(2)規約についての法律構成

 

そもそもチケット転売は,チケットという紙片と共に,チケット購入者が公演等の主催者に対して有している,当該公演等を鑑賞する権利を譲渡するものです。民法上はこれを「債権譲渡」と呼びます。「チケット転売禁止」ということは,主催者とチケット購入者の間で「債権譲渡を禁止する」と約束をしていたこと意味します。民法ではこれを「譲渡禁止特約」と呼びます。

 

民法ではチケットを含め債権譲渡自体は可能とされていますが,その一方で譲渡禁止特約を設けること自体は可能とされています。ですから,これに違反して債権譲渡(チケット販売)が行われてしまった場合,主催者はチケットを転売した人(転売者)に対して,規約に違反したということで何かしらのペナルティを要求することは可能です。

もっとも,その場合に主催者に損害等が発生するとも考えられませんし,規約の中でペナルティの額を定めてもそれをいちいち請求するのは大変な手間です。結局転売者に対して責任追及をするのは現実的ではないといえそうです。

 

では,主催者は規約に違反したこと自体を理由に債権譲渡(チケット販売)には効力がないと主張することができるでしょうか。これができるとなると,チケットを落札した人(購入者)に対して,「あなたには公演を鑑賞する権利はない」として入場を拒否することができることになります。

 

しかし,これが認められてしまうと,譲渡禁止特約があることを知らずに債権譲渡を受けた人は予想外の事態に陥ることになります。

そこで民法上は,債権譲渡の際に譲受人が譲渡禁止特約があることについて知らず(善意),知らなかったことについて過失がない(無過失)の場合,債務者は譲受人に対して譲渡禁止特約違反だとは主張できないと定めています。

つまり,チケットを購入した人が購入時にそのチケットについて転売禁止という特約があることについて知らず,知らないことについて過失がなかった場合は,主催者は譲受人の入場を拒否できないというわけです。

 

こうしてみると,結局チケット高額転売に規約は無力だと思えます。

 

(3)規約は有効か①~特約についての悪意・有過失

 

規約がチケット高額転売に対する規制として有効だと考える方は,チケット購入者が善意・無過失とはいえな,と考えるのかもしれません。つまり,チケットには転売禁止という規約があることは広く知られているので,チケットを購入した人はそのことを知っていたか,知らなかったとしても過失がある(悪意又は有過失),という論理です。これが正しければ,主催者は購入者の入場も拒否できることになります。

 

ただ,私は,そもそも友人間やSNSなどでのファン同士のチケットの売買などが広く行われ,購入者も問題なく入場できていることからも,チケットについて転売禁止というルールがあることが広く知られていると言えるのかは疑問だと思います。

 

また,この論理を認めてしまうと,友人から行けなくなったコンサートチケットを購入した場合も入場を拒否されることがありうることになります。これはあまりにも行きすぎではないでしょうか。

 

(4)規約は有効か②~一定の転売だけを禁止する特約

 

では,規約(譲渡禁止特約)の内容を,

 

高額転売は禁止

業者による転売は禁止

 

といった条件付きのものにした場合はどうでしょうか。こうすれば友人間の売買などは規約に違反しないことになります。

 

ただ,このような条件付きの規約は,通常の転売禁止という特約以上に広く知られているとまでは言い難い気がします。ですから,譲受人が特約について悪意又は有過失とえるかは疑問です。加えて,どの正規料金にどの程度上乗せしたら「高額転売」なのか,相手がどういう属性なら「業者」なのかも微妙ですから,その点でも悪意又は有過失といってよいかに疑問が残るところです。

 

やはりこの方法も有効ではないという気がします。

 

(5)規約は有効か③~主催者の承認

 

規約の内容を単純な譲渡禁止という内容とし,仮にその規約が広く知られていて購入者が悪意又は有過失と言える場合でも,友人から買った人の入場を認める方法があります。それが「債務者の承認」です。譲渡禁止特約に違反する債権譲渡でも,債務者が承認すれば債権譲渡は有効になるので,主催者が友人間での取引などについて承認すれば購入者は入場できるわけです。アーティストが問題視するようなチケット高額転売ではない場合には主催者が債権譲渡(チケット販売)を承認し,入場も認められる,ということになります。

 

規約を用いて妥当な結論を導く理屈はおそらくこれしかないのではないかという気がします。

 

しかし,チケット高額転売の購入者が入場を拒否された場合,購入先に対して代金の返還を求めることは法的には可能ですが容易ではありません。結局購入した人を犠牲にしてチケット高額転売を行っている者を利するだけの結論にはならないのでしょうか。また,チケット高額転売の購入者から購入した人はどうなるのでしょうか。いろいろと問題がありそうです。

 

6 物価統制令

 

中には物価統制令に言及する方もいますが,そもそも物価統制令は終戦後の事態に対処し,物価の安定を確保し以って社会経済秩序を維持し国民生活の安定を図ることを目的として創設されたもので(1条),現代において持ち出すことには違和感は否めません。また,オークションによって根が釣りあがるという状態に物価統制令が適用できるのかも疑問という気もします。

 

7 高額転売に対する規制はどうあるべきか

 

このようにチケットの高額転売を法的に規制しようとするとなかなか厄介だというのが正直なところです。

 

ただ,私は上述した特定商取引法や古物営業法を適切に運用することで一定の成果はあげられるのではないかという気がします。

 

規約による規制を持ち出す方はそれでは不十分だということだと思いますが,そもそも講演を鑑賞する権利についてチケットという有価証券を使うのは,流通,そして権利行使(入場者確認)を容易にするために他なりません。そのような方式を採用しておきながらチケットの流通を問題視するのはやや本末転倒という気もします。また,上述のように規約による規制には法律論的にもいろいろと問題があるように思います。

 

特定商取引法,古物営業法による規制を簡単に諦めないでもらいたいと思いますが,さて,いかがでしょうか。

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